| 技法 | 油彩、墨、カラーインク、キャンバス |
| サイン | 左下にスタンプサイン「Marc Chagall」 |
| 額 | 額装 |
| サイズ | 41.0×33.0 cm |
| 制作年 | 1966 |
| 鑑定書 | Comité Marc Chagall鑑定書付 |
| 来歴 | クリスティーズ・ロンドン、1989年11月28日、Lot376 |
ユダヤ人であるマルク・シャガールにとって、モーゼは重要な主題のひとつである。1887年ヴィテプスクのユダヤ人家庭に生まれたシャガールは、迫害やホロコーストといった悲劇を経験しながらも、パリ移住後も生涯を通じてユダヤ人としてのアイデンティティを大切にした画家である。彼の作品には、故郷への郷愁を映した田園的なモチーフや、聖書に基づく宗教的な主題が数多く登場する。一方で、「愛の画家」とも称され、恋人や結婚をテーマにした幻想的な作品も多く知られている。
今回の出品作品に描かれているモーゼは、旧約聖書「出エジプト記」に登場する偉大な預言者である。奴隷状態にあったヘブライ人(ユダヤ人)をエジプトから導き出し、神から十戒を授かることでユダヤ教の礎を築いた。シャガールにとってモーゼは、ユダヤ民族の歴史そのものを体現する人物でありながら、苦難の中でも人々を希望へと導く象徴的な存在であった。
本作では穏やかに微笑むモーゼの表情が印象的に描かれている。慈愛に満ちた人物像であると同時に、力強い黄色の色彩で描かれている様子からは、神と対話を重ねた存在として輝かしい印象を受ける。モーゼに抱擁される人物の表情や姿こそ明確に描かれていないものの、あらゆる人々を受け入れ包み込むような深い愛情と安らぎを感じさせる。
背景を彩る情熱的な赤色と神々しい黄色の鮮やかな色彩は、「色彩の魔術師」とも称されたシャガールならではの色彩表現であり、画面全体に祝祭的な高揚感をもたらしている。円熟期に描かれた本作は、大胆で堂々とした輪郭線や筆致が鮮烈な色彩と響き合い、シャガールの魅力がより一層引き立つ存在感のある一作となっている。