| 技法 | アルミ泥、漆、紙 |
| サイン | 額裏に作家シール (作家直筆サイン、スタンプ入り) |
| 額 | 額装 |
| サイズ | 78.5×143.8 cm |
| 制作年 | 1965 |
| 文献 | 「森田子龍と『墨美』」、兵庫県立近代美術館、1992年, p. 31、no. I-14 |
| 来歴 | 作家本人から入手 サザビーズ香港、森田子龍: 墨人、2017年10月1日、Lot.812 |
森田子龍(1912–1998)は、兵庫県豊岡市に生まれた戦後日本を代表する前衛書家である。1951年に美術雑誌『墨美』を創刊し、ジャクソン・ポロックやピエール・スーラージュら欧米の抽象美術をいち早く紹介するなど、書を現代美術の視点から捉える新たな潮流を築いた。翌1952年には井上有一らとともに前衛書グループ「墨人会」を結成し、伝統書法を基盤としながら同時代の国際的な芸術動向を積極的に取り入れ、日本の前衛書と国際的な抽象美術との架け橋となり、書を現代美術の文脈へ位置付けるうえで先駆的な役割を果たした。
本作《寒山》は、1965年に制作された作品である。森田は生涯にわたり「寒山」をたびたび題材として取り上げており、京都国立近代美術館所蔵作や第5回サンパウロ・ビエンナーレ出品作にも同題の作品が確認できることから、「寒山」が作家にとって継続的に探求した重要な主題であったことがうかがえる。
「寒山」の二字は、特大筆による力強く大胆な造形によって表され、文字が持つ意味と視覚的な造形性が追求されている。黒い支持体にアルミ泥と漆を用いた独自の「漆金」技法により、筆跡は独特の光沢と深い質感を帯び、光の当たり方によって多彩な表情を見せる。素材そのものの物質性を表現へ取り込んだ点も、本作の特徴の一つである。
森田は、文字を単なる制約ではなく、書の本質を成す骨格として捉えた。文字には固有の筆順があり、その一画一画には不可逆的な時間が刻まれる。この文字性こそが書に時間性と空間性を与える本質であると考え、「書は文字を書くことを場として、内のいのちの躍動が外におどり出て形を結んだものである」と述べている。本作《寒山》は、その芸術思想を力強く体現するものであり、伝統的な「文字」という骨格を重視しながら、一気呵成の筆運びによって内なる躍動を形にした、森田子龍の書芸術を理解するうえで貴重な作品である。