| 技法 | 木炭、パネルに貼られた紙 |
| サイン | 左下にスタンプサイン「Degas」 |
| 額 | 額装 |
| サイズ | 44.0×29.0 cm |
| 鑑定書 | ポール・カイラックによる鑑定書付 |
| 文献 | "Catalogue des tableaux, pastels et dessins par Edgar Degas et provenant de son atelier : 4me vente", Paris, 1919, p. 157, no. 183 |
| 来歴 | 第4回アトリエ・ドガセール、ギャルリー・ジョルジュ・プティ・パリ、1919年7月3日、ロット183 西武ピサ、東京 個人蔵、日本 |
本作品は、巨匠エドガー・ドガによる木炭デッサンの貴重な一点である。画面には、踊り子が座ったまま頭を垂れ、両手で脚を外側へ広げながら股関節を伸ばす姿が描かれている。伸びやかな四肢は力強い線で捉えられ、木炭特有の柔らかなぼかしによって、身体の量感やしなやかなフォルムが巧みに表現されている。
ドガは、同時代の画家のなかでもとりわけ卓越した素描力を備えた画家として知られる。油彩に加え、本作のような木炭やパステルなど多彩な技法を用い、数多くの作品を残した。人物や動物の一瞬の動きを的確に捉える観察力と、それを描き出す確かな描写力は、今日まで伝わる膨大な作品群からも明瞭にうかがうことができる。
踊り子は、ドガが生涯にわたり最も好んで描いたモチーフの一つである。彼は足繁くパリのオペラ座へ通い、舞台上だけでなく、稽古や舞台裏における踊り子たちの自然な姿を繰り返し描いた。ドガが惹かれたのは、華やかな舞台の美しさというよりも、集団としての動きや人体のフォルム、そして絶えず変化する身体の動きそのものであった。幾度にもわたる観察と素描の積み重ねによって培われた卓越した描写力は、モデルの一瞬の動きや身体の緊張感を見事に画面へ定着させている。
また、ドガが追求した独特の構図やフォルムには、日本の浮世絵から受けた影響が色濃く反映されているといわれる。ゴッホやモネら同時代の画家と同様に、ドガも浮世絵に深い関心を寄せ、多数を蒐集していたことが知られている。浮世絵に見られる大胆な画面構成や切り取られたような視点を取り入れることで、描かれる人物が視線を意識しない、ごく自然で本能的な仕草や姿勢を表現しようと試みたのである。
本作は、その卓越した素描力と洗練された構図感覚によって、ドガ芸術の本質を端的に示す優れた木炭デッサンである。踊り子という代表的な主題を通して、人体の動きとフォルムへの飽くなき探究が凝縮された、資料的価値の高い貴重な作品といえよう。