| 技法 | 油彩、板 |
| 額 | 額装 |
| サイズ | 91.1×91.1 cm |
| 制作年 | 1955 |
| 鑑定書 | 共シール |
| 来歴 | クリスティーズ ニューヨーク、ポストウォー&コンテンポラリーアート モーニングセッション、2018年5月18日、Lot. 708 |
日本抽象絵画のパイオニアとして名高い山口長男が、抽象絵画を描き始めた1955年に制作された極めて重要な初期作品である。
山口の絵画は、限られた色彩と単純化された形態によって、独自の造形世界を築き上げている。
典型的な作品は黒地に赤土色や黄土色の色面が画面の大部分を占めるが、本作では、深い黒の背景に赤土色の形が大胆に配され、画面上部の円と、下方で交差する複数の帯状の形態が印象的な対比を生み出している。
直線的な形態は不規則な角度で組み合わされ、幾何学的でありながら、どこか有機的な広がりを感じさせる。
さらに、絵具の厚みやナイフの跡が残る表面は、色面に物質としての存在感を与え、簡潔な構成に豊かな表情をもたらしている。
山口がこうした表現を追求した1950年代は、その画風が大きく展開した時期にあたる。
初期には円や細長い矩形を組み合わせ、形の大きさや配置を探るような作品が制作された。
1954年から57年頃になると、これらの要素はより緊密な関係を築き、黒と赤茶色を対置する構成に独自の秩序が生まれる。
本作に見られる円と帯状の形態の組み合わせにも、異なる形が互いに作用しながら画面を構成する、山口ならではの造形への関心が表れている。
後年には矩形を中心とした、よりシンプルな画面へと展開していくが、その基盤となる表現を見いだすうえでも、この時期の作品は重要である。
1955年の第3回サンパウロ・ビエンナーレ、翌年の第28回ヴェネツィア・ビエンナーレへの日本代表としての出品は、山口の活動を国際的に広げる契機となった。
1960年代にはグッゲンハイム美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)にも作品が所蔵され、日本の抽象絵画を担う作家として海外でも評価を確立していく。
具象的な洋画から出発した山口は、対象を写実的に描くことから離れ、形と色そのものによって画面を成立させる道を切り拓いた。
黒の静謐さと赤土色の温かみ、そして荒々しい絵肌が織りなす表現は、素朴さと重厚さを併せ持つ。
要素を削ぎ落とすことでかえって強い存在感を生み出すその絵画は、山口長男の独創性をよく伝えている。