公開オークション

LOT 086

並河 靖之

七宝花蝶文蓋付瓶

JPY 1,000,000 - 1,500,000
HKD 50,100 - 75,200
USD 6,400 - 9,600
技法 僅かな直し
サイン 高台内に刻銘「京都並河」 
サイズ h10.8×φ6.0 cm (栓含む/including stopper )

HIGHLIGHT

七宝とは、銅や銀などの金属素地の上にガラス質の釉薬を焼き付けて装飾する工芸技法であり、金属線で文様の輪郭を区切る有線七宝や、線を用いず絵画的に表現する無線七宝などの技法がある。日本では江戸時代後期に始まり、明治時代には輸出工芸として発展し、精緻な技術と豊かな色彩によって国際的評価を確立した。
こうした潮流の中で、並河靖之(1845–1927)は京都を拠点に活動し、同時代の濤川惣助と並び称される存在として、日本近代七宝の頂点を築いた。並河は明治初期より七宝制作を開始し、国内外の博覧会で高い評価を得るとともに、1896年には帝室技芸員に任命され、その地位を確立した。とりわけ有線七宝の技法を極限まで洗練させ、細密な金属線と透明感のある釉薬による静謐で均整の取れた装飾表現を特徴とする。
本作「七宝花蝶文蓋付瓶」は、こうした並河の成熟した様式をよく示す一例である。柔らかな卵形の器形に、深く均質な濃紺地が広がり、その上に二羽の蝶が軽やかに配される。蝶の翅は極細の金属線によって緻密に区切られ、内部には淡く繊細な色調の釉薬が焼成されており、輪郭の明晰さと柔らかな色彩とが高度に調和している。とりわけ装飾を抑えた広い背景は余白として機能し、蝶の存在を際立たせるとともに、画面全体に静かな緊張感をもたらしている点が注目される。一方で頸部および裾部には花唐草文が精緻に巡らされ、中央の静寂と周縁の装飾との対比が明確に構成されている。このような抑制と装飾の均衡は、明治期輸出工芸における洗練と日本的意匠感覚の融合を示すものであり、有線七宝という制約の中で線・色彩・空間を高度に統合した並河作品の本質をよく体現している優品と位置付けられる。

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