公開オークション

LOT 050

絹谷 幸二

雲海・日・月・富岳

JPY 1,500,000 - 2,500,000
HKD 75,200 - 125,300
USD 9,600 - 15,900
技法 ミクストメディア、キャンバス、パネル
サイン 左下、右下にサイン 裏面にサイン、タイトル、拇印
額装
サイズ 38.1×41.0 cm
来歴 前所有者が作家より直接入手
現所有者が相続を経て上記より入手

HIGHLIGHT

絹谷幸二は1943年に奈良県で生まれた洋画家である。1962年には東京藝術大学美術学部油画科に入学し、在学中の1964年、法隆寺への古美術研究旅行で焼け残った金堂壁画の迫力に強い衝撃を受けた。1966年には同大学大学院美術研究科に入学しアフレスコ古典画の研究を行う。伝統的なフレスコ技法を現代的に再解釈し、鮮烈な色彩と力強い筆致、躍動感あふれる人体表現で知られる。新人洋画家の登竜門とされる安井賞を当時の最年少で受賞。日本芸術院会員、文化功労者としても評価が高く、日本の現代洋画家を代表する作家のひとりである。
今回出品する4点に登場する「富士」「太陽」「女性」「薔薇」といったモチーフは、いずれも絹谷が繰り返し描いてきた代表的な主題である。
とりわけ富士は円熟期において反復して描かれているが、それは単に日本を象徴としてだけではなく、そこに強いエネルギーや生命力を見出したためだろう。絹谷の描く富士は、作品ごとに多様な表情を見せる。赤、金、青と大胆な色彩が表され、時には龍や鳳凰といった神秘的なモチーフが添えられることもある。
Lot050《雲海・日・月・富岳》は「富岳」の名のもと、どっしりと構えた堂々たる赤富士が描かれ、その背後には太陽と月が対峙するように配されている。赤富士を囲む雲海はリズミカルに波打ち、本来同時に現れることのない太陽と月の共存は、現実を超えた幻想的な世界観を強く印象付ける。
この圧倒的なスケール感と祝祭性は、Lot051の大きな太陽にも顕著に表れている。画面の上半分を占める太陽がヴェネツィアの街を力強く照らし出す。右下の教会に記された「ARS VITA ESTA」はラテン語で「藝術は人生なり」を意味する言葉であり、絹谷の座右の銘としても知られる。実際に、生前、絹谷幸二天空美術館にて開催された展覧会(2021年7月、梅田)のタイトルにも用いられている。同じ箇所に記された「VENETIA」の文字を見ずとも、建造物や景観からこれが水の都・ヴェネツィアということは想像に難くない。旭光、すなわち朝日でありながら鮮やかに発色する街の表現からは、イタリアの芸術に触発された絹谷の情熱がうかがえる。
また、別の重要な主題として「愛」をめぐる作品も数多く制作されている。今回出品するLot052と同タイトル《愛・うつろい》は公益財団法人日動美術財団の所蔵作品としても知られる。所蔵作品は、1987年に制作され、翌年11月には銀座のフジヰ画廊で開催された「愛と詩とエロス 絹谷幸二展」に出品された。その後、1989年7月は第3回具象絵画ビエンナーレで国内各所を巡回し、近年も女性像やヴェネツィアをテーマとした美術展など数多く出品されている。今回出品するLot052《愛・うつろい (Ⅱ)》は、それに続けて制作された作品と考えられる。色使いや顔の数、配置などは先行作と近い形式をとりながらも、そこに描かれる言葉や象徴は新たな展開を見せている。左上には前述の通り絹谷らしいエネルギッシュな太陽が配され、中央にはイタリア語で「愛している」を意味する「ti amo」、右下には日本語で歌う女性が描かれている。情熱を重んじる精神性や、芸術的原点であるイタリアへの憧憬、そして日本人としての感性が重なり合い、画面は多層的な意味を帯びている。リズミカルに構成された画面は流動性を感じさせると同時に、うつろいゆく時間のはかなさと祝祭的な高揚感を併せ持っている。
そして最後に、絹谷はスポーツの祭典である1998年長野冬季オリンピックの公式ポスターも手掛けている。《銀嶺の女神》と名付けられたその作品は、頭に薔薇を飾った少女を描いた先行作《青春・花飾りの少女》と結びついている。今回出品のLot053《花飾りの女》もまた、その系譜に連なる作品と考えられる。顔の右半分が光に照らされ、花飾りを身に着けている構図は先行作と共通する。しかし比較すると、顔立ちはしっかりと大人びており、こちらに微笑みかけるのではなく、まっすぐに遠くを見つめる強いまなざしが印象的である。また、先行作では頭部の一部を数輪の薔薇が飾る程度であったのに対し、本作では花飾りが頭部全体を覆い、華やかさは格段に強調されている。光の先を見つめる女性の表情には、未来への夢や希望、人類への愛、生命の輝きが重ねられている。

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