公開オークション

LOT 087

鴨居 玲

婦人像

JPY 3,000,000 - 5,000,000
HKD 149,000 - 248,400
USD 19,000 - 31,700
技法 油彩、キャンバス
サイン 右下にサイン、年代
額 額装
サイズ 91.0×65.2 cm
制作年 1950
鑑定書 東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
文献 『鴨居玲画集』、日動出版部、2000年、p. 27、no. 2
『没後35年 鴨居玲展 静止した刻』、公益財団法人日動美術財団、2020年、p. 21

HIGHLIGHT

本作《婦人像》は、鴨居玲が金沢美術工芸専門学校の卒業制作として1950年に描いた、画家としての出発点ともいうべき作品である。制作された1950年は、第二次世界大戦の終結から5年を経た時期にあたり、戦後日本の洋画界が新たな表現の方向を模索していた時代であった。その只中で、洋画家・宮本三郎に師事し、人物表現を学んでいた若き鴨居玲が、画家としての歩みを踏み出す時期に制作した本作は、後年独自の人間表現を確立していく鴨居芸術の原点を示す、極めて興味深い作品である。鴨居玲は、孤独や不安、哀歓といった人間の内面を、卓越した描写力と独特の暗い色調によって描き出した日本洋画界を代表する画家である。1928年、金沢に生まれ、1946年に開校したばかりの金沢美術工芸専門学校(現・金沢美術工芸大学)に第一期生として入学し、洋画家・宮本三郎に師事した。宮本は1947年に二紀会を創立した中心人物の一人であり、鴨居は在学中からその活動に参加することとなる。鴨居が画家として早くから頭角を現していたことは注目に値する。1948年、第2回二紀展に《青いリボン》で初入選。翌1949年には第3回二紀展で褒状を受け、二紀会同人に推挙された。まだ20代前半の学生でありながら、すでに公募展の舞台で評価を得ていたのである。そして1950年、金沢美術工芸専門学校洋画専攻科を卒業する。このときの卒業制作として制作されたのが《婦人像》である。1950年3月25日に卒業制作を提出しており、この時期は鴨居が学生から職業画家へと移行していく、極めて重要な時期であった。この頃の鴨居を考えるうえで重要なのが、師・宮本三郎の存在である。宮本は藤島武二、安井曾太郎らに学び、戦前から二科展を中心に活躍した洋画家であり、戦後は二紀会を創立して新たな具象絵画の場を築いた。宮本の作品には確かな写実性と卓越した人物描写があり、鴨居もまた師のもとで人物を観察し、形態を捉える確かな技術を身につけていった。自身の作風が確立した後の婦人像や裸婦像に比べると、本作は師の宮本三郎の影響を伺わせる柔らかなタッチと色彩で描いている。1950年代に入ると、《空気の層》《あるく》などを二紀展に発表し、1954年には同人努力賞を受賞する。一方で1957年頃から約10年間、油彩による制作に行き詰まり、パステルやグワッシュなど様々な表現を試みた。この長い模索の時期は、後に確立される独自の人物表現へ至るための重要な過程であった。1959年の渡欧、1965年のブラジルへの渡航、さらにパリ、ローマ、スペインへの滞在を経て、鴨居の画風は大きく変貌する。1969年には《静止した刻》によって第12回安井賞を受賞し、同年には昭和会優秀賞も受賞。長年の模索を経て、現代日本の具象絵画を代表する作家として広く認められるに至った。とりわけ重要なのが、1971年から1974年頃にかけて滞在したスペイン・ラ・マンチャ地方である。バルデペーニャスにアトリエを構え、そこに暮らす人々と接するなかで、「酔っぱらい」「廃兵」「おばあさん」など、人生の悲哀を背負った人物たちを繰り返し描いた。ここで培われた濃密な人物表現こそ、鴨居玲の名を今日まで特別なものとしている。一方、1950年の卒業制作に目を戻すと、そこにはまだ後年の鴨居を決定づける暗鬱な世界観は完成していない。しかし、それだけに本作は興味深い。後年、人生の孤独や人間の深奥を描くことになる画家が、画家として歩み始めた最初期に、何を見つめ、どのように人物を描いていたのか。その出発点を示す作品だからである。鴨居は1985年、57歳という若さで急逝した。その生涯は決して長くはなかったが、1940年代後半の初期作品から、スペイン時代の人物群像、晩年の自画像に至るまで、一貫して「人間とは何か」という問いを描き続けた。石川県立美術館が2026年の没後40年展で鴨居を「生涯をかけて『人間とは何か』を絵にした画家」と紹介していることは、その芸術を端的に示している。本作は、後年の完成された鴨居玲を知るうえでも、また一人の画家がいかにして独自の表現を獲得していったのかを考えるうえでも、極めて興味深い初期作品である。若き鴨居玲の確かな描写力と、後の芸術へとつながる人物への強い関心を伝える、画家の原点ともいうべき一作である。

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