| サイン | 高台内に刻銘「京都並河」 |
| サイズ | h11.2×w7.8×d8.2cm (栓含む/including stopper ) |
七宝とは、金属素地の上にガラス質の釉薬を焼き付け、文様や色彩を表現する装飾工芸である。金属線によって輪郭を形成する有線七宝をはじめ、線を用いず釉薬の濃淡や色彩によって絵画的な表現を追求する無線七宝など、多様な技法が発展した。日本では江戸時代後期より技術が発展し、明治時代には海外輸出向けの工芸品として隆盛を迎えた。高度な技術力と繊細な意匠、美麗な色彩表現によって、日本七宝は国際的にも高い評価を得るに至った。
その黄金期を代表する作家の一人が、京都を拠点に活動した並河靖之(1845–1927)である。同時代に活躍した濤川惣助とともに日本七宝を芸術の域へと高めた存在として知られ、卓越した有線七宝の技術と独自の釉薬表現によって、近代日本工芸史に不朽の名を残した。
今回出品される並河靖之の七宝作品3点は、初期から円熟期に至るまでの作風の変遷を感じることのできる作品群である。並河は伝統的な七宝技法を基盤としながら、独自の色彩表現や意匠の探求を重ね、日本七宝の芸術性を高めた代表的な作家の一人である。
ロット94の七宝花鳥文蓋付壷は、並河が伝統的な装飾表現を追求していた時期の特徴を備えた作品である。この時期の作品には、公家文化の影響を受けた龍や鳳凰、花鳥などの伝統的な図柄が多く取り入れられ、細やかな巻軸模様によって装飾性豊かな表現が展開されている。壺の周囲や足元に施された複雑な縁取り装飾からは、並河の高度な技術力と精緻な意匠構成をうかがうことができる。
ロット95の七宝花蝶文花瓶は、並河の円熟期を代表する表現のひとつである。この時期、並河は独自の研究によって生み出した「並河の黒」と称される漆黒の透明釉薬を背景に用い、七宝表現に革新的な深みをもたらした。透明感のある黒地によって草花や文様の色彩が際立ち、繊細なグラデーションや豊かな色彩表現を可能とした。従来の巻軸模様は次第に簡略化され、蝶や草花といった自然のモチーフがより大きく、繊細に描かれるようになる。その独自の表現は国内外の博覧会でも高く評価され、並河靖之の名を世界に広める礎となった。
ロット96の七宝花蝶文花瓶もまた、円熟期における並河の美意識を示す作品である。並河家の家紋としても知られる蝶のモチーフが優美に描かれ、洗練された色彩感覚と余白を活かした構成によって、自然の美を繊細に表現している。これら3点は、伝統的な七宝技法を基礎としながら、装飾性を重視した表現から、より洗練された芸術的表現へと発展していく並河靖之の創作の歩みを示す作品群である。精緻な技術、革新的な釉薬表現、そして自然美への深い洞察が融合した並河七宝の魅力を堪能できる貴重な機会となる。
これら3点は、伝統的な七宝技法を基礎としながら、装飾性を重視した表現から、より洗練された芸術的表現へと発展していく並河靖之の創作の歩みを示す作品群である。精緻な技術、革新的な釉薬表現、そして自然美への深い洞察が融合した並河七宝の魅力を堪能できる貴重な機会である。