| 技法 | 漆、紙 |
| サイン | 裏面にサイン、題字 |
| 額 | 未装 |
| サイズ | 812.2×150.3 cm |
| 制作年 | 2006, signed 2007 |
| 鑑定書 | 日本洋画商協同組合鑑定登録委員会鑑定登録証書付、松本武がTijs Visserに宛てた本作に関するfaxのコピー、白髪が本作を認証する旨を記したfaxのコピー |
| 文献 | "Gutai : dipingere con il tempo e lo spazio : painting with time and space", SilvanaEditoriale, Milan, 2010, pp.66-67 |
| 展覧会歴 | Painting with Time and Space, Museo Cantonale d’Arte, Lugano, Switzerland, 2010 Explosion, Painting as Action, Moderna Museet Stockholm, 2012 |
本作は、白髪一雄が1956年に神戸のアンデパンダン展で発表した作品を、50年後の2006年に作家指示のもと再制作したという異例の経緯を持つ作品である。アンデパンダン展とは、19世紀後期フランスで保守的な審査制サロンに対抗して登場した無審査・無賞の自由出品型の展覧会のことを指す。ポスト印象派をはじめ、多くの芸術家にとって、自由な表現の場として重要な役割を果たした。この形式はやがて世界各国に広がり、日本でも1947年から「日本アンデパンダン展」が毎年開催され、さらに1949年から1963年までは「読売アンデパンダン展」も並行して開催された。
本作の原作は、1956年5月神港新聞社主催の「神港アンデパンダン展第二部・彫塑の部『具体グループ室』」(神港新聞社3階ホール・神戸)で制作されたものである。特にこの1956年は白髪にとって重要な年でもあった。後に世界的に評価されていく「具体美術協会(通称:具体)」に加入した2年目にあたり、彼はこの年から野外展や舞台などでの発表を視野に入れ、「作品計画帳」と呼ばれるノートに、アクション性を重視した作品構想を記録し始めた。本作のオリジナルの案もここに記されている。道のように広げた紙の上に塗料を置き、跳びながら塗料を踏み潰して前に進んでいくという制作方法である。
オリジナル作品はその後保存されなかったが、2006年、白髪と当時デュッセルドルフのクンストパラスト美術館の展覧会ディレクターを務めていたTijs Visserとの対話の中で、この作品を再制作する話が持ち上がった。しかし、この時ひとつ大きな問題があった。当時の白髪は股関節を骨折しており、「跳ぶ」というアクションが必要不可欠なこの作品の再現が不可能であった。そこで「跳ぶ」動作はVisserに委ねられ、兵庫県芦屋市立美術博物館の学芸員・山本淳夫の指導のもと、デュッセルドルフで開催されたZONE・ZERO展にて再制作が実現した。その後、完成した本作は、尼崎の白髪のもとに送られ白髪本人による承認を受けている。実際に本作の裏面には「一九五六年神戸での具体美術神港アンデパンダン展に出品した私の作品が再現されたものです。二〇〇六年にドイツのデュセルドルフ美術館における、ゾーンゼロ展に出品するために、當地のスタッフによって再制作された作品であります。 二〇〇七年十一月一日 白髪一雄」と書かれている。
その後、本作は兵庫県立美術館および芦屋市立美術博物館の協力のもと、具体美術展「Painting with Time and Space」(ルガーノ州立美術館、2010年)で公開された。
また、ストックホルム近代美術館やミロ美術館をはじめとする複数の美術館でも展示されている。本作は、「再現作」「白髪監修のもと他者の身体によって制作された」という2点において、極めて特異で貴重な作品である。制作時の関係者の間でも、本作は丁重に扱われており、画商・松本武による作品の確認書や白髪本人による認証も資料としてある。